「お誕生日おめでとう!」
そう切り出すと電話の向こうの銀ちゃんが明らかにぽかーんとした。そりゃそうだ。だってもう今は10月11日の午前1時な訳で、もう誕生日ではないわけで、っつか、忘れてたわけじゃなくて! 忙しかっただけで!
もう銀ちゃんは大人だし、ほら、なんていうか…わざわざ10日になったとたん「おめでとう!」って言われるとか、そんな若い子みたいなこと、期待してないはずで…
『、オメー忘れてたろ』
「っち、ちが! ばか! 銀ちゃんのばか! 何を言うんだ!」
慌てておどけて見せたけれど、電話口の銀ちゃんの声はなんだか低くて、冷たくて。
思わずしゅんとして、「ちがうの、忙しかっただけなの…」と、もごもご言い訳してしまった。
『つか、今何時か分かってる?』
「…1時」
『何日の?』
「………11にち…」
『もう終わりましたケド、誕生日?』
「…ごめん…」
やけに冷静な銀ちゃんに、ゆっくりとした口調で追い込まれるあたし。もう泣きそうだ。
銀ちゃんは大人だから、なんて、間違いだったなあ…誕生日はいつになっても、祝ってほしいもんだよね…。(だって、きっとあたしが逆の立場ならもっと怒ってるだろうから)
モーレツに後悔した。忙しくて、なんて言い訳だ。逢えなくたって、電話くらい出来たはずだ。なのに、あたしは、しなかった。
「…ごめん、銀ちゃん…」
ぽた、ぽた、と、あたしの眼から涙がいくつもこぼれた。声も震えたけど、そんなの銀ちゃんに気付かれちゃいけない。だって、自業自得なのに、それで泣いて、銀ちゃんが悪者みたいだ。
ずずずず。勢いよく鼻をすすって、「今度プレゼント持ってくね」と精一杯強がってから電話を切る直前、銀ちゃんの声が聞こえた。
『』
『ありがとな』
あたしがううん、と呟くのと、受話器からツーツーって聞こえてくるのと、ほぼ同時だった。
やっぱり優しい銀ちゃんの声を聞いたら、すぐに涙も乾いた。きっと今頃銀ちゃんはモーレツに照れているはずだ。思わず、へへへと笑ってしまう。
「あ… 好きだよって、言いそびれた…」
しかたない、明日プレゼントと一緒に、届けることにしよう。
遅刻魔なあたしを
どうか許して
(08/10/11 銀ちゃんごめん…忙しかったんだ!←)