ふらり。銀ちゃんが、その両の手をじっと見つめて、ゆっくり座り込んだ。
白い装束に、血。銀ちゃんのではなくて、誰かほかの、…たぶん複数の、血。
「12人」
聞こえないくらい、か細い声。いつもへらへら笑ってて、飄々としてて、あたしをしっかり支えてくれる銀ちゃんは、今はどこにも居なかった。
「斬った。俺が」
うん。あたしには頷くことしかできない。泣きそうな銀ちゃんの気持ちなんて、心なんて、あたしには理解できない。
あたしはいつも守られるだけ。銀ちゃんは弱音を吐かない。あたしの前では、決して。銀ちゃんは強いから、あたしなんかより、ずーっとずっと、強いから。
「…汚ねーな、俺の手」
ううん。首を横に振る。銀ちゃんと目が合わなくて、銀ちゃんの考えてることが、いつもよりずっと分からない。
ちょっと無骨だけど、優しい手だよ。銀ちゃんの手をぎゅっと握って、呟いた。
「優しくなんか、ねーだろ」
「人、殺してんだぞ。 何人も」
あたしの手から、銀ちゃんの手がするりと抜ける。きっと銀ちゃんには、殺めてしまった人の血が、まだ見えているんだろう。
もう一度銀ちゃんの手を捕まえて、今度は逃がさないようにしっかり握る。きれいな手だよ、ほら、あたしの手、汚れないでしょ。
「ほら、見て銀ちゃん」
「銀ちゃんの手に触っても、あたしの手、きれいなままだよ」
「… 」
あたしの名前を小さな声で呼んだ銀ちゃんの顔が、一瞬泣きそうに歪んだ。そして、あたしは急に抱きしめられる。
耳元で繰り返される、ごめんの声。あたしに謝らなくていいのに。銀ちゃんの頭をゆっくり撫でながら、思った。
ああ、神様。どうか、この優しい人の苦しみを、少しでも除いてあげられますよう。
12の重み
(09/02/22 初めて戦場にでたあと、とかだったらいいな)