「え、お詫びなんていいって。小太郎逃げなきゃだったんでしょ? 仕方ないもの。」

はあっけらかんと笑う。

「いやしかしそういう訳にはいかないだろう、約束を違えたのは俺なのだから。」

「…私は気にしてないのにー?」

「お前が気にしていようがいまいが関係ないのだ。とにかく詫びねば気が済まない。」

俺が必死に主張すると、が困ったように溜息をついて、しばらく考え込んでからこう言った。

「じゃあ、欲しいものあるの。 いい?」

もちろんだ。そう答えた俺が連れて行かれたのは呉服屋で。店内に飾られた高価な着物が欲しいのかと思いきや、が欲しがったのは店の前のワゴンに無造作に突っ込まれた薄っぺらい着物が一枚。

「小太郎これ! 可愛いでしょ?」

「ああ、確かに良い絵柄だとは思うが…もっと高いもので無くて良いのか? 遠慮などしなくて良いんだぞ?」

念を押すように問いかけたら、が桃色の頬をぷくりと膨らませて俺をわずかに睨んだ。

「これがいいの! 私のすきなもの、買ってくれるんじゃなかったの?」

「いやしかし…そんな安物で、あ、いや、いい分かった。これで良いんだな。」

食い下がろうと思ったが、先程より強く睨まれて言葉を失う。大人しく店主に金を払い、包んでもらった着物をに手渡すとは表情をころりと変えて、嬉しそうににこにこ笑った。

「ありがとう小太郎、これずっと欲しかったの」

の欲しがった着物は袂に藤の花の描かれた、淡い色合いのもので。色も白く、美しいこの娘ならばきっと上手に着こなすのであろう。
そんなことをぼんやりと考えていると、が俺の顔を覗き込んだ。自然に口元が弛む。

「いや、構わん。きっとお前に似合う」

「えへへ、うれしい」

からかってやろうか。ほんの悪戯心で思った。

「怒ったり喜んだり、お前は忙しい奴だな」

するとはまた、なんでもないようにからからと笑って言った。



「だってほんとにうれしいんだよ。小太郎、だいすき」








藤の花より美しい

(08/03/05〜09/04/03までの拍手お礼夢。 桂さんは初挑戦でした!!)