誘われるように川に向かって、あたしは橋の上から辺りを見回す。
春爛漫、そこかしこに桜色。溢れるのは新しい恋の予感。
そして、川岸に座り込む銀ちゃんを見つけたんだ。
慌ててそっちに向かって、浮かれた顔で銀ちゃんの名前を呼ぶ。
振り向いた銀ちゃんは肩を落としていて、あたしはそれすら楽しかった。
「銀ちゃん、またパチンコ?」
「あたり。 …あ、いや、負けたとかじゃあねえから!」
負けましたって顔に書いてあるのに、負けず嫌いな銀ちゃんだなあ。
まあ、そこが可愛いんだけど。いじりがいがあるっていうか!
あたしは銀ちゃんの肩をぽんぽんと叩いて、もう片っぽの手は親指を立てて突き出す。
「いいじゃん負けたってさ。春なんだし、きっといいことあるよ」
「いやだから負けたんじゃねえって言ってんですけど!」
「ほら、桜もきれいだし。」
意地を張る銀ちゃんを完全にスルーして、桜のほうを指さしたら、銀ちゃんは不満そうに「なァちょっとチャン、人の話聞いてる?」。
「聞いてなーい!」けらけらと笑って返して立ちあがって、そのまま走りだす。
思った通り銀ちゃんは「テメーこのやろ、言ったな?」なんて言いながら走って追いかけてきて、いい歳した男女が二人、まるで子供みたいでしょ。
「きゃー銀ちゃんが怖いよー!」
「自業自得っつーんだよ」
すぐに後ろから抱き締められて、あたしは銀ちゃんの腕の中にすっぽり。
そのまま銀ちゃんの方に体重をかけたら、どうやら足場が悪かったらしく、あたしと銀ちゃんは、芝生の上に勢いよく倒れこんでしまった。
「お前ホンットお転婆」
「うるさい、そういうとこが好きなくせにー」
正解。笑った銀ちゃんの頬に、春のかけらが一枚、ひらりひらりと舞い落ちた。
恋は桜のごときもの
(08/03/05〜09/04/03までの拍手お礼夢。 1年放置か…!)