紫煙が立ち上る先をただ土方はボーッと見つめる。
胸の空虚感は未だ埋まらない。どんな女を見ても、どんな女に出会っても…埋まらない。
愛していた女がここ、真選組屯所からいなくなって半年が過ぎた――



いつもと変わらない日々が続く。
いつものように朝を迎え、いつものように某サディスト星の王子様からの奇襲を交わし、
いつものようにストーカー行為を働きに出掛けた己の上司は放っておく。どうせいつものことだ。
今日も返り討ちにあってすぐに屯所に戻ってくるだろうから。



どうにも今日は仕事をする気にもなれない。


副長としてこれでは示しが付かないとも思うのだが、
仕事がはかどらない時に無理にしようとしても、するだけムダであると結論づける。


らしくもなく感傷的になっているのだろうか。
それとも、今朝夢で見たからだろうか。


自分にとって最も大切だった女を自ら突き放したその光景を。




「チッ…鬱陶しい…」




少しずつでも…面影は忘れ去っていたはずだった。
けれど完全に、あの女の姿を思い出した。


姿、仕草、声、温かさ全てを。一度、思いだしてしまえば無性に苦しくなる。
無様極まりない自分が妙に腹立だしく当てつけに煙草を灰皿にもみ消した。



と、その時勢いよく襖が開かれる。
その先にいたのは部下である山崎で、息を切らしていることから随分急いでいるのだろうか。
…だが、背中にミントンのラケットを所持しているのだけは見逃せない。



「ひっ…土方さん!」
「あ?なんだ?」
「大変です!いますぐ来て下さい!何故かわからないですけど道場破りが…!!」
「はァ?」


わけわかんねェよ。土方の返答にとにかく来て下さいと引っ張る山崎に
気が進まないまま重い腰を上げた。


道場破りなら普通は剣道場に行くだろう。何故、屯所なんだ。
新手のテロリストかと問う彼にいいえ、と答えが返ってくる。


その道場破りとやらは向かってくる隊士をただ木刀で斬り伏せていくだけ。
ただその者が言う言葉は責任者を出せとそれだけ。
木刀という単語に土方は某銀髪頭のサムライを想像し、眉を顰めたがすぐさま思考を取り消す。
万屋とは関係はないのだろう、何故かそう断言できる。




「総悟のヤツは?」
「…寝てます。」
「緊急事態だろォオオ?!起こせよ、こういう時は!」


よりにもよって部下も上司もいない。最初からアテにしているつもりはなかったが、
いつもいつもこのような厄介事は己が処理しているような気がして腹が立つ。
そのくせ、給料は同じ。あまりにも理不尽過ぎやしないかと考えていた矢先、現場にたどり着いた。






「テメーか。くだらねぇ道場破りとやらは。」
「……」



仮面を被った小柄な人物の足下には倒れ伏す隊士の姿が多々。
死屍累々の光景にあんぐりと口を開けすぐさま顔を真っ青にする山崎とは対照的に土方は冷静だった。



隊士をここまで薙ぎ倒すなど素人に出来る真似ではない。相当の手練れかと確信付け前を見据える。
斬り込んできたのは相手で、すぐさま刀を前に、斬撃を受け止めた。





だが、そこでもう動けない。





「なっ…」




初撃で分かってしまった。
太刀筋、立ち振る舞いを立った一目で目にしただけで。


次も受け止める。
もう知っている答えをもう一度確認するようなもので…これ以上の行動に意味はない。





「テメッ…!まさか、」
「これでも…私は足手まといですか?」




凛と鈴が鳴るような透き通った声。
その声は紛れもなく女の声で、己が恋いこがれる女の声だった。



そんなはずは、と否定するも…否定する要素が見つからない。


間違いない。目の前の相手は、



「お久しぶりです、土方さん。」
「…っ……」



半年前に消えたはずの女。
仮面を取り去った相手は自分が此処を追い出した女――の姿。


なのに何一つ変わらない目の前の存在に恋情の嵐が心の臓を突き破りそうになる感覚を覚える。
抑えていたはずの感情。獰猛に暴れ回る内の獣を抑え、切り出した。




「なんでテメーが此処にいやがる。」
「戻って来ました。」
「許可した覚えはねェ。クビにしたはずだ。」
「はい。クビになりましたね。なのでもう一度新入隊士として入隊させて頂きたく、こちらに。」
「出て行け。」
「嫌です。私は…貴方が思っている以上に強くなりました。」




居合い切りの要領で斬り込んできたに反応が一瞬遅れた。
首筋に木刀を突き立てるは真摯に問う。




「反応…遅れましたね?」
「…」
「過去の私以上に…今の私は動きが素早くなりました。」
「…」
「素早さだけじゃありません。利き腕から逆の手に変えた剣の腕も…上げました。」
「…」
「前以上に戦えます。ここまで来るのに半年も…掛かっちゃいました。」




途端、へらっと笑うの笑顔は…ずっと焦がれていたモノで。
もうこれ以上、己の心を誤魔化すことは出来なかった。






「土方さん…どうか私を…もう一度貴方の傍に置いて下さい。」






そして君を抱きしめる

















2006/9/15
ってことで続き、です
どうなのこの文才…!羨ましいにもほどがあります!なんかこう素敵な文章を読むと心が潤いますね…
ほたるちゃんの土方さん素敵だな…むふふ、だいすきだ!マジでありがとうございました…!

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