銀ちゃんの様子がおかしい。
気付いたのは銀ちゃんが帰ってきて暫くしてからだった。


あたしは銀ちゃんの、いわゆる彼女。
2ヶ月くらい前にあたしが勝手に住んでた家を引き払って万事屋に移住した。
あたしがあの家を引き払うことを銀ちゃんはあんまりよく思ってなかったみたいだけど、少ない荷物だけを持ってひょっこり現れたあたしを銀ちゃんは何も言わずに迎え入れてくれた。
銀ちゃんはあたしのあの家を隠れ家、みたいに思ってたみたいだけど、親に先立たれてずっと一人暮しだったあたしは、あんな孤独な家で一人きりで眠るのは耐えられなかった。だから銀ちゃんに縋った。
それからあたしはずっと銀ちゃんに頼りっぱなしで、家計は結構キツイだろうに何も言わずに愛してくれる。
あたしももらいっぱなしじゃ罰が悪いから、ご飯を作ってみたりだとか掃除したり洗濯したり、たまにかかってきた電話に出てみたり、てな感じに邪魔にならない程度のお手伝いをしてる。

…でもまあ、そんな感じで頼りっぱなしのあたしだけど、誰よりも銀ちゃんのこと解ってる自信がある。
いっつもふわふわして、へらへらして、掴み所なくて、弱みなんて絶対に見せない人だけど、本当はすごく繊細なんだって知ってる。強がってることもすぐわかる。


だから絶対、今日の銀ちゃんはおかしい。
神楽ちゃんや新八くんの前ではそんなそぶり、絶対に見せないけど、あたしにはごまかしたって無駄なんだ。



神楽ちゃんが酢コンブを買いに行って、新八くんは親衛隊の会合へと向かって。あたしと銀ちゃんが二人きりになった時にあたしは切り出した。



「銀ちゃん、今日おかしいよ」


いつもの椅子に座って耳をほじっていた銀ちゃんの肩が一瞬ぴくりと跳ねる。


「ンなことねェよ。普通だろ」

「ほらまた強がった。無理してんの見え見え。痛々しいよ」

「違ェってば」


あたしに背を向けたままでそう言う銀ちゃんの声が笑ってない。


「違わないでしょ。 …なんで無理すんの?」


沢山のものを背負っている大きな背中をあたしは見据えて言い放つ。
してねえよ、銀ちゃんが小声で呟いたのはちゃんと聞こえたけど、聞こえないフリをして「何、大きな声で言いなよ」、苛苛とそう言った。
そしたら銀ちゃんは黙り込んでしまって。銀ちゃんがおかしい原因を突き止めてあたしは慰めたかったのに、そんな銀ちゃんの態度に腹が立った。

「男の癖にうじうじしないでよ。そんでもって無視すんな。聞こえてんでしょ。」
「してねェっつってんだろ!」

あたしが語気を荒げると銀ちゃんは一喝、そう叫んだ。
驚いてしまって一瞬息を呑んだあたしを見ないままで、身体だけはこちらを向けて銀ちゃんは続けた。

「っ…いつかはもどうせ俺の前から居なくなるんだって…だからもういいだろ!」

銀ちゃんが叫ぶ。声を張り上げる。
あたしはこんな銀ちゃんを、こんな余裕のない銀ちゃんを見たことがなくて。
なんとも寂しいことを切迫した表情で言い捨てた銀ちゃんを見てると、泣きたくないのに涙がこぼれた。

それでも銀ちゃんを支えられるのはあたししか居ないんだよね。

目一杯叫んでからしゃがみこんでしまった銀ちゃんに、あたしはしがみついて同じくらい大きな声で叫ぶ。
(あいしてるよ、ぎんちゃんがだいすきだよ、だいじょうぶ、いなくなったりなんて、しないよ)

…抱きしめてるだけじゃあ届かないこの思いを、届ける術を探して。







渇望

(06/12/19 やっぱり弱い銀ちゃんがすき。)