眠れるはずなんてなかった。あたしはいくら押し止めたって溢れてくるこの想いをどうすることもできずただ暗闇の中、ぼんやりと土を踏みしめていた。
あたしがどんなに彼を想っても彼があたしを想い返してくれることなんてなくて、解ってるからこそ不毛な想いをどこかへやる術をただ一人、闇の中で呆然と模索していた。
昼間はいいのだ。どんなにあたしが思い悩んでいても誰かがそれを察してくれる。
察してくれなくたって誰かと喋っていれば気がまぎれるし、仕事が忙しければそれで何も考えずに済む。
ただ、夜になって眠る前になると急に彼のことを思い出して。我ながらなんて厄介な恋をしてしまったのだろう。ここには彼じゃなくたって素敵な人は一杯いたはずなのに。土方さんだって、沖田クンだって、それから山崎クンだって。
でもあたしがすきになったのは近藤さんで、でも近藤さんにはお妙さんという人がいて、でも近藤さんはあたしの気持ちなんて知らないからあたしに優しくて。ああジレンマだ…あたしは声に出して呟いた。
自分のことを考えるので一杯一杯になってたあたしは足音に気付かなかったらしい。
近藤さんその人が縁側を通って厠に行こうとして、庭先に口をあけて突っ立っているあたしに声をかけた時、大袈裟に驚いてしまった。
「…ー?」
「うひゃァ!は、はいッ!」
「あ、ごめん、驚かせたか…こんな時間にどうした、」
「いや…あの…何っていうか、その…夜明けとか…待ってみようかなーって…」
あははははーと乾いた笑みを浮かべながらの弁解は自分でも驚くほどしらじらしかった。
だめだ、完全に引かれたよこれは。あたしはそう覚悟したけど近藤さんはそうか、なんて笑ってあたしのことを見た。
「夜明けかァ…イイな。そういや最近、空なんて気にしてなかったなァ…俺も待つとすっかなー、夜明け」
「ェエエエエエまじですか!?」
「ちょ、そんな大声出したら近隣の住民に迷惑でしょーが!」
「狽ヘっ、すいません!つい取り乱してしまって…」
「いやいや、構わんが」
頷いた近藤さんをあたしは思わず見つめた。近藤さんも何か考え事があったらしくそれから黙り込んでしまって、あたしたちは縁側に腰掛けたままずっと無言のまま、ただ隣に互いの温度を感じていた。
近藤さんにとってこの位置はあたしではなくお妙さんが居るのがベストなのだろう、解っていたけれど、今日くらいはここをあたしが占領したって構わないだろう。これは神様の御褒美なのだ、辛い恋をしているあたしへの。あたしはそう思うことにした。
何時間もお互い喋らないまま時が過ぎて、空が白みはじめた。「もうすぐですね」そう小声で言ってみたけれど反応はない。不思議に思って近藤さんの方をちらっと見ると近藤さんは座ったまま小さくイビキをかいていた。
いつの間に寝ちゃったんだろう、そう思いながらあたしは眠りこんでいる近藤さんをそこに残し、部屋にもどって毛布をとってきて肩にかけてあげた。
その時、一瞬強い光が差して、「ああ夜明けなんだ」と呟く。
あたしはこの時、叶わない恋に溜息をつきながらどこかで、すぐ隣で眠っている近藤さんを想ってこんなに傍に居られるなら今の関係も悪くないと感じていた。
暁に嘆息届けよ、と
(06/11/04〜12/20までの拍手お礼夢。近藤さんだいすき☆)