私は今日も道に迷う

迷いたくなくて迷うんじゃない
自分から迷うんだ。つまりわざと迷う。



そしたらきっとあの人が助けてくれる。



もう何度目だろう。
最初は本当に親切心から助けてくれた…んだと思う。(それともお仕事だから、だったのかも。)
最近はもう、迷ってるところを見つかるたびに呆れられる。そしてあの人はちょっと怒る。
私は、その顔が見たくて迷うんだ。



だって、迷いでもしなきゃ
忙しいあの人には逢えないんだ。










「まァーた迷ってンのか。テメェは。いい加減、道くらい覚えたらどうなんだ。あ?」

「えへへ、ごめんなさい、土方さん…。道とか、覚えるの苦手なんですってば。」


嘘。嘘をつくのなんて簡単だ。
こうやって嘘をついてたらまた逢えるもん。


「ったく、何年住んでンだよ、江戸に」


「はえ?」


「間抜けな声出してんじゃ無ェよ! 何年住んでるかつってんだ。言っておくがこれ厭味だからな」


「え、あ、私…うん、生まれてからずっと江戸です、よ」


しょんぼり答えてあの人―…土方さんの方を見たら眉間の皺が増えてた。
生まれてからずっと居ンのにまァだ覚えられねェのか道が、だとか、病院へ行った方がいいんじゃねえか、それは絶対ェ病気だ、だとか。
道を覚えられないなんて嘘なのに、そうとは知らない土方さんは私を心配してくれてる。
口調はキツイけれど、優しい人なんだ。
普段はうっとうしいと思う煙草の煙すら心地よくなるくらい、私は土方さんに夢中になってしまっている。


「ほら、着いたぞ。テメェん家だ」

「え、土方さん覚えちゃったの、私の家…すごいですね。」

「むしろこれ位のことが覚えられないテメェが異常なんだ」

「えへへ、すいません…。」


曖昧に笑ってごまかそうとする私を土方さんはじいと見てる。
決まりが悪くなってそっぽを向いたら、





だなんて名前を呼ばれて…(え…、あれ、名前…!?)


「これからはわざと迷う様なマネすんな
 堂々と屯所へ逢いに来い」



なんて言われたんだけど…






え?




「あの…   それは、どういう?」














察しろ、馬鹿。


そう言って土方さんは踵を返していってしまった。
私も真っ赤になっちゃったけど、土方さんも真っ赤になってた(様な…気が…する。)













迷子の子猫ちゃん

(06/08/31 土方さんに救われたい方向音痴の私です)