何度やってもあたしの作る煮付には何か一味足りなくて
一口食べる度に物足りなそうな顔をする銀ちゃんをあたしは直視できなかった。

バツが悪くて俯いたあたしに「おいしい」って笑う銀ちゃんは優しすぎて、今度もまた味気のない煮付を親の仇の様に掻き回すあたしの目尻に涙が滲んだ。


しばらくすると鍋の中でぐつぐつと揺れる人参やじゃが芋なんかに醤油の色がついて、香ばしい、でも独特の匂いが台所に漂い出す。
匂いだけは一丁前に美味しそうな、でもどこか物足りない味の煮付をあたしが憎らしげに睨むと、いつのまにか台所にきていた銀ちゃんがあたしを後ろから抱きすくめた。


「…銀ちゃん、そんなことしたらあたしこれ、混ぜらんないよ」

あたしは鍋を掻き回していた御玉杓子を置いて銀ちゃんの腕から逃れようとする。銀ちゃんはそれに抵抗してあたしをもっと強く抱きしめる。
首筋の近くで銀ちゃんが小さく笑う声がした。

「今度はいい匂いしてんじゃん」

「…匂いだけね。きっとまた、いまいち物足りない煮付なんだよ」

銀ちゃんの笑いとはまた別の、そうまるで自嘲のような笑みを漏らすあたしに銀ちゃんが沈黙して
あたしはあたしを抱きしめる銀ちゃんの腕を、その戒めをいとも簡単に解くことができた。

「…味見、するよね?」

小皿に少しだけ出し汁を掬おうとしてあたしはもう一度御玉杓子を掴もうとする。
指先で、御玉杓子に触れたつもりが、あたしが触れたのは熱くなった鍋の淵で、咄嗟に手を引っ込めても触れてしまった部分がやけに熱を持ってひりひり痛む。

「あっつ…」

火傷しちゃった、そう精一杯笑って銀ちゃんの方を振り返り、火傷した方の手を差し出す。と、一瞬こっちを見た銀ちゃんはすぐにあたしの手を捕まえて、それを自分の口の方へ持っていった。


ちゅ。小さく音を立ててあたしの指先は銀ちゃんの唇に触れて、真っ赤になったあたしを銀ちゃんが見て。




「砂糖いっぱい入れてさ、甘みの強い方が俺はすきだな」









熱く、痛む。

(07/03/19 変換がありませんが何か。笑)