銀も金も玉も何せむに
まされる宝 子にしかめやも







「銀ちゃん先生ー、これわかんないよ」

「お前そりゃ、授業聞かねーからだなー」

「えー…銀ちゃん先生の授業はちゃんと聞いてるよ私」

「マンガ読みながらか。どうせ読むならジャンプにしろよ」

「やだよ、そんなの。別に熱くなろうとか思ってないし」

「おま、ジャンプ馬鹿にしたらバチ当たるぞ!」



うららかな午後。放課後の校舎で繰り広げられる日常の一コマ。
テスト前だからか、辺りに人影は見当たらず、
テスト前だからこそ、は銀時のところへ教科書を持参していた。


「もういいじゃんジャンプは。可愛い生徒が困ってるんだよ?親切丁寧に解説してよ、銀ちゃん先生。」


ね、いいでしょっ、とは(自分なりに)可愛く首を傾けた。
銀時はといえば非常にダルそうに仕方ないなあ、とかナンとかぶつぶつ呟いて、
のために椅子を引いた。


「ま、そこ座れや…で、どれよ」

「えへへ、ありがと銀ちゃん先生」


は素直にその椅子に座る。
なんだかんだ言って優しい銀時に、はちょっぴりお熱なのだ。
近すぎず遠すぎない位置をしっかりキープしてから教科書をぺらぺらとめくり。
これなの、と短歌をひとつ、指差した。


「…全然わかんないの?ちゃん」

「うん、ぜんぜんわかんない。先生現代語訳して。」

「お前、そんな若い時から他人に頼ってたら、ロクな大人になんねーからさ、自分で考えろ、自分で」

「いいから教えてよ」


面倒臭いからって逃げんな、と辛辣な言葉で一刺しされた銀時は、はいはい、と生返事をし、 じゃあ、お前これ読んでみろよとの方を見た


「ぎ…ぎんもきんもたまッ て、あ痛!体罰反対!」


普通に音読みをしたの頭に飛んだのは銀時の平手で、強烈痛いその平手に思わずは頭を押さえて涙ぐむ。


「お前これはな、『しろがねも、くがねもたまもなにせむに…』って読ンでだな…」


面倒くさそうにだが、それでも講釈を始めた銀時。
ふんふん、などと相槌を打ちながら、最初の内は聞いていたものの、の思考は段々と教科書に載った短歌から離れていき、 細かい説明をしつつ教科書を指差す銀時の手や、耳に届く声、それから横顔につい夢中になる。
そして知らず知らずの内に笑みを浮かべて、うふふと華やいだ想像の世界へ旅だったを呼び戻したのは銀時の声だった。


「お前、やっぱり話聞いてねーだろ」

「え?ん、え、きいてた!」

「上の空で、どこ見てたんですか。そんなに俺は魅力的かー?」


にやりと笑って銀時は言う。は急なことにえ、いや、えッ違、と慌ててしまう。
きっと銀時は冗談のつもりなのだろう、そんなことはわかっているのだが、言い当てられた様に感じて思わず心が跳ねる。


「授業中もずっとそんな感じじゃねーか。」

「銀ちゃん先生だって私のこと見てるんじゃん!やだ、変態!」

「違ッ、おま、何てコト言うんだ! 俺ァだなあ、オメーが授業聞かなくて大丈夫かなー、って心配してやってんだろーが!」

「いいよいいよ、うん、わかってるからさ、ちゃんと」

「な、違、待て!違うから!ほんとに違うから!」

「えへへーじゃあ、せんせ、私帰るねえ。家でもうひとふんばりしてみる!」

「おう、頑張れよ……ほんと違うから!」










銀や金や宝玉を何としよう。
どんなにすぐれた宝も子に及ぶだろうか いや 及びはしない。






そうかなあ
私はきっと、自分の子より、「銀」が大事だよ。












しろがねも

くがねもたまも


(06/08/15 短歌は山上憶良。銀だから☆)