それは燃えそうに色づいた空。それはその赤を受けて煌く水面。
あたしはいつもと同じ川岸でいつものように寝転ぶ。いつもと違う赤があたしを包む。
そんな日常、そうなるはずだったのに、そこに一石を投じたのは綺麗な顔したサド王子だった。
「、パンツ丸見え」
淡々と総悟が言う。普通の神経してたら(例えば退ちゃんとかだったら)淡々として言えるようなことじゃないのに総悟は淡々と言う。
「えええええ!?ちょ…み…見るなよ!まじまじと!」
あたしのリアクションは至ってノーマル。普通の女の子の反応だ。…ほんとは別に見られたって平気なんだけど(総悟になら)、別にいいよなんて言うわけにもいくまい。言って引かれたくないし、喜ぶ(…わけはないだろうけど)総悟もあんまり見たくない。
「嘘でィ」
「っ…!」
総悟はまたも淡々という。あたしのどうでもいい思考なんてまるで我関せずといった感じ。まあ確かに関してないんだけど。こうもあっさり嘘だなんて言われたらあたしは反応に困ってしまう。怒ればいいんだろうか、笑えばいいんだろうか。
あああああ考えたってわかんないしよく考えれば今更わざわざつくろって反応するほどのことでもない。ので、あたしはいつものように振る舞うことにした。
「見たかったんでしょ、実は」
ニヤリと笑って総悟に詰め寄ったら一瞬面食らったような顔をするかな、って期待したんだけど次期サド王(=サド王子)がそんな反応するわけもないや。逆にニヤっと笑って「見てやっても構わねェよ。俺が下着チェックしてやろうか」と返される。
「結構ですー」むすっとふくれて言ってからあたしは立ち上がって水辺ぎりぎりまで近寄る。指先で冷たい水をちゃぷちゃぷと弾いていると水音に混じって後ろから足音が聞こえた。総悟が近づいてきたんだろうな、思っていると急に背中を押されてあたしはどぼんと綺麗に着水してしまった。
「…ななな、な…あんた…ちょ、え、信じられないんだけど…!」
浅かったとは言え顔から水中に突っ込んだあたしは何とか上半身だけ川から脱出、川岸で嬉しそうにニヤついてる総悟を絶句して見つめる。
「まさか落ちるとは思わなかったんでィ。普通ふんばるだろ、普通。」
サディスティックにもほどがある!悔しいあたしはそう突っ込む代わりに総悟の足をつかんで引っ張った。誰かが見ていたらまるでホラー映画だと形容するであろう勢いで、総悟を引きこんだ。一瞬の出来事に総悟も抵抗できなかったらしい、案外簡単にどぼん、と大きく水音が立った。
「ふん、ざまあ見ろ!たまには総悟も痛い目に合わなきゃ不公平だもん。」
あたしは自分の成し遂げた偉業(と言っても過言ではないと思う)に満足げに胸を張る。
「隊服がびしょ濡れ…で、生臭ェ…」
いつのまにかあたしと同じように上半身だけ出した総悟がびしょぬれになりながら真剣に呟いた。
眉を顰める総悟をあたしが満足げに見ると総悟があたしを見てぷっと噴出して、ビショ濡れでィと笑った。
総悟こそ、真剣に言い返してから、笑う総悟になんだかあたしも楽しくなってしまって結局二人で顔を見合わせて大笑いした。
徐々に日が傾いていって暗くなる中、あたしたちはいつまでも水の中で笑って。
日が暮れてしまって真っ暗になってから漸く川から這い上がって、そんな姿にまたお互い大きな声で笑い合った。
夕焼けに、笑う水音
(06/11/04〜12/20までの拍手お礼夢。わりとお気に入り)