「あの」
「あの、沖田さーん?」
「…あの、ていうか聞いてくれてる?」
「ちょっとー?沖田さーん?何、え、何、いじめ?ちょ、そ…総悟おぉぉ!」
なんたることか、クリスマスだってのにあたしの彼は完全にあたしを無視している。
そればかりかあたしを置いて仕事にまで行ってしまった。
土方さんですらどんなに迷惑をかけてもあたしを無視したことなんてないのに、総悟があたしを無視するなんて…
あたし、なんかしちゃったのかな…あー寝相悪かったとかかな…つくづく自分の馬鹿さ加減に嫌気がさすよ。はあー
なんか大きなお仕事みたいで、隊士のほとんどが屯所から居なくなった。
がらんと広い所内。ただでさえ寂しいその情景なのに総悟に無視されたことが妙に身にしみて、あたしは涙が出そうになった。
「何しちゃったんだろうなぁ…もう許してくんないのかなぁ…」
これまで何度か総悟を怒らせたことはあったけれどこんなに手ひどく無視されたのは初めてだ。
なんだかんだ言ってあいつはすっごく優しい奴だから、あたしが泣きそうになればいつもいつでもどこにいてもしょうがねェなァは、そう苦笑してあたしに手を延べる。
そんな総悟があれだけ完璧にシカトするんだよ?あたしを。これはもう完全にあたし、何かしたんだな…
総悟に嫌われたらあたし生きてけないんだよ、総悟。
次第次第に涙がこぼれはじめ、最後には顔をぐっちゃぐちゃにしながらあたしは総悟宛てに置手紙を書いて屯所を出た。いたたまれないんだもん。
『ごめんね総悟。総悟おこってるのよね?あたし馬鹿だから何したかわかんないや。
でもほんとにごめん。怒らせちゃったのは謝ります。 …あたしそんなに寝相悪かったの?
総悟があたしを要らないっていうならあたしは消えます。でもあたし、総悟と離れて暮らすなんて考えられないよ。
でもね、総悟は嫌だろうから付きまとったりはしません。でもだいすきです。総悟のことがだいすきです。
だから総悟に嫌われるのは嫌なの。だからちょっとだけ、あたしから距離を置くね。
…もし許してくれるって言うんなら、この街のどこかで泣いているあたしを、どうぞ抱きしめてください。』
「あんのバカ…」、そう呟いた総悟があたしを探しにきてくれるのを期待してあたしは河原にしゃがみこんだ。
泣きはらした目が赤い、目蓋が重くてヒリヒリする。でも泣いたからかちょっとすっきりした。あたしは総悟のことばかり考えた。
「」
「なんだよ幻聴かよ…総悟の声とかあり得ない、どんだけ未練がましいのよあたし…」
「勝手に幻にすんなよ。あー…こんなところに居たのかィ。探したんだぜ」
「……っ、本物ォ!?」
急に聞こえた総悟の声、振り向いたあたしは目を疑う。だって総悟がだよ?あんなに怒ってた総悟がだよ?
「本物でィ……それとも、幻の方がは良かったんですかィ?」
「ちっ、違…!」
「…」
「…ホントは、総悟が探しにきてくれるの、期待してた」
「…」
泣いて泣いて泣いた所為でぱんぱんに腫れた顔を見られたくなくて、あたしはもう一度俯く。
俯いたままで、ねえなんで怒ってたの。そう小さな声で問いかけてみた。
すると総悟の答えは予想外なもので。
「怒ってなんかいねェや。ただ、折角のクリスマスに在り来りなコトはしたくねェなー、と思って、ちょっとからかっただけでさァ。」
「は…はァ?」
「だーかーらーァ、これで俺の大切さが身に沁みたろィ。ちょったァ寝相をよくする努力をしなせェ」
こ…こいつ、飄々と言ってのけやがった…!
なんだ、じゃあ、あたしが勝手に勘違いして暴走しただけで、そんなあたしの反応をこいつは楽しんでたってことか…!?
しかもあたしが散々泣いたことも気付いてるくせに、なんの謝罪もなし…!?
「ッ、総悟のバカァ!」
この後、あたしは新年を迎えるまで総悟を無視しつづけてやった。
基本は二倍返しでしょ?
(06/12/20〜26までの拍手お礼夢。タイトルに無理が生じています。)