今日も沖田隊長は現れない。
溜息をついた副長があたしを見て、沖田隊長を探してくるように言った。
あたしは頷いて立ち上がる。行く処なんて決まっていた。
沖田隊長がサボっているとしたら、屯所の裏のあそこだから。



「隊長ぉ、副長が探してますよー」
寝てるんだろうかただボーっとしてるだけなんだろうか、芝生の上に座り込んで動きのない背中にむかって声をかける。
丁度その時タイミングよく風が吹いて、隊長の細くて奇麗な髪が揺れる。
ちょっとだけドキっとして、ちょっとだけ赤くなってしまった。

「もうちょっとだけいいじゃねェかィ」
もそり、と少し動いた背中が拗ねた様に言う。熱をもった頬を悟られたくないあたしにとってはその方が好都合で、悟られないように業とらしく溜息をついた。
「いい加減にしないとホントに斬られちゃいますよ。いいんですかー?」
呆れた声を作って、小首を傾げる。隊長がむっとしたオーラを背負って、その通りにむっとした声で言った。
「やれるもんならやってみろっつうんだ。斬り返してやらァ」
反射的にあたしはぷっと噴き出してしまって、そしたら眉を寄せた隊長が此方を向いて、明らかに怒った顔でにっこり笑った。
「何が可笑しいんでィ、
「うあ、あ、あの…いえ…」
子供みたいで可笑しくて、なんて言えるわけない。あたしはうろうろと視線を泳がせて、曖昧に笑った。
そのまま何時もみたいに問い詰められると思ったのに、空を見上げた隊長がぽつりと言った。
「こんなにいい天気なのに、仕事なんてやってられねェや」
あたしが一度だけ頷いたら、いつの間にこっちを向いたのだろう、隊長があたしを見て笑ってて、あたしも笑い返した。

でもそこで、あたしはちょっとだけ違和感を感じた。
視線が合わない。

あたしは隊長を見てるのに、隊長が見てるのはあたしの…
「胸?」
「…どうしてのそこには何もないんでィ。俎板でも挟んでんのかィ?」

「黙れ沖田」






有無を言わさず、隊長を無理やり仕事へと引っ張りだしたなんて言うまでもない。









一陣の風

(07/05/04〜08/03/05までの拍手お礼夢。どんだけ放置…orz)