ぼとり。
椿が落ちる様を形容するならきっとこんな音だろう。
落ちてしまった花を、しゃがみこんだ総悟が摘まみあげて、あたしのほうに見せた。
「咲いてる間はきれいなのに、落ちてしまうと醜いもんだね」
総悟が可笑しそうに笑う。なによ、そう言うと、らしいなァと思って、なんて答えが返ってくる。失礼な話だ。
「どういう意味よ」
「いや、随分手厳しいじゃねェかい。落ちたって椿は椿だろ」
「ちがうよ」
総悟の手の中の椿を、あたしは指先でつまみあげる。それから総悟の目の前にぶら下げた。総悟によく見えるように。
「いい? このコはもう、木に見捨てられちゃったんだよ。種を残すため頑張って咲いて、んで、用が済んだらポイされたの。ね、わかるでしょ。」
このコは、愛したひとに捨てられる、惨めな女そのものなんだよ。奇麗に咲いた自分にしがみついたままで、まだ奇麗に咲いたままの自分を見てほしくて、それでも腐って終わってしまう、惨めな女なんだよ。
そしてきっと、いつかはあたしもこうなってしまうんだ。そう思うとすごく怖い。すごく怖いと思うくらい、総悟に夢中なんだよ。
「それでも、そいつが奇麗に咲けたのはその木のお陰だろィ」
「だからこそ未練がましいんじゃん。あたしみたいで、あたしは嫌い」
思わず顔を顰めた。総悟が静かにこちらを見つめたけど、そんなことはもう知らない。
ねえ、ずっとあたしを見ててよ。あなたの傍で奇麗に咲いたあたしを、もっとちゃんと、見据えてよ。
「なんでィ、俺を責めてンのか? 俺はを捨てたりしねェよ。」
「だといいけど」
可愛くないなと自分でも思う。総悟のことは信じたいし、信じてる。
けど、飽きられるのも時間の問題だとも思う。だってあたしはかわいくないもの。
黙りこんでしまった総悟をちらりと見る。と、総悟は言い表しがたい表情であたしを見つめていた。
「…ごめん、変なこと言った」
バツが悪かった。いたたまれない。すぐに背を向けて、あたしは総悟から逃げようとした。
すると総悟はあたしを優しく抱きしめて、「は椿じゃねェだろィ」と囁いた。
その声は少しだけ、悲しそうだった。
落ちる椿
(08/03/05〜09/04/03までの拍手お礼夢。 このヒロイン屁理屈こね子だな(…))