あたしはその日、珍しいことに物凄くすっきり目を覚ました。
でも隣で寝てたはずのトシはもう居なくて、そっか今日はお仕事か。いつになくはっきりした頭でそんなことを考えた。
そのままあたしはごろりとベッドの上に寝転がる。寝覚めのいい朝の上機嫌がなせるわざだ。どうせ今日はなんの予定もないし、このまま寝入っちゃってもいいや…そう思ったあたしがいつもはトシの顔があるほうを見る、と。


そこには信じられない光景が広がっていた。それはまさしく世界の終わりで、それはまさしく愛の終わりだった。


トシの寝ていたあたり、そこに落ちていた一枚の写真。そこには髪の長い綺麗な人が写ってて。
(なんだトシそうだったんだ、だから昨夜誘っても相手してくんなかったんだ。へえー、へえ。)


全世界が終わりを告げた声が聞こえた気がした。











「ただいまー…………あれ、…?」
夜になってトシが帰ってくる。思えば最近帰りが遅いのもコレ(小指を立てるアレ)のせいなんだね。
もう外は真っ暗なのに電気がつかないままの部屋を不審に思ってか、トシがあたしの名前を呼ぶことすら憎らしい。
あたしは朝起きたときのまま、ベッドの上から1ミリも動かず、そこで体育座りをしていた。


家中をあたしの名前を呼びながら廻ったトシが、「っかしいな…アイツどこ行きやがったンだ」とかブツブツ言いながら寝室に入って来る。
「おかえり」、今まで出したこともないくらい低い声で呟くとトシが大袈裟にびっくりした。

「っ…、お前こんなトコで何してんだ?電気もつけねェで…」

「それはこっちのせりふだバカトシ。こんな時間まで何してたのよ。」

「何っておま…仕事に決まってンだろ。変な疑惑持ってンじゃねェぞ」

ったくよお、疲れて帰ってきたのによお…、トシが迷惑そうに言う。迷惑してるのはこっちでしょ。




愛してるって言ったくせに。一生そばにいるって誓ったくせに。
男ってみんなこうなの?

「じゃああの写真は何なのよ」

目許に涙が溜まる。トシの顔がまともに見れない。(まあ見る気なんてないけどさ)

「あ?写真?」

…写真?トシが怪訝な顔をする。あたしは勢いあまってくしゃくしゃに丸めてしまったそれをトシに思いっきり投げつけた。

「女の写真おいてくなんてバッカじゃない?…信じらんない。よくそう無神経で居られるよね」

あたしの投げた写真(…もとい、丸まった紙くず)はトシの頬に当たって、トシの顔をしかめさせてから地面にぽとりと落ちた。
トシの無骨だけど器用に動く指がそれを拾い上げる瞬間をあたしは目の端で捕らえた。

トシが写真を開く音がする。かさ、こそ。その音が聞こえる度にあたしの胸が痛んだ。




写真をしばらく見つめていたトシが噴出して、、テメエ…と小さく笑いながらあたしの方に近づいた。
あたしはまったくわけがわからなくて「な…何よ!笑い事じゃないんだから…!」そう言いながら身構えた。

トシがあたしの目の前に写真を出す。「、コレが誰か知んねェのか?」
こんな腹立たしい質問、あったもんじゃない!「し…知るわけないでしょう!バカじゃない!?」
あたしが答える。トシはそうか…そりゃ残念だ。そう言ってまた肩で笑った。


、コレな、攘夷志士の桂だ。」





……へ?





「か…桂さん?」


確かにそれはよく見れば、この間テレビで特集されていた攘夷志士で。なんかよく解らない生物を連れた攘夷志士で。
トシ曰く、手配書を作るための資料だったらしい。

勝手な勘違いで間違った方向に突っ走ってしまったあたしは自分の勘違いを知って真っ赤になってしまい、ごめん…と蚊の鳴くような声で謝った。


トシはもう一度笑って、「別に構やしねェよ。俺も悪かったンだしな」。そう言って。
それからあたしのおでこにキス。それで二人は笑うの。








青天のヘキレキ

(06/12/26〜07/05/04までの拍手夢。晴天?それとも青天…?(…))