「すきなんだ」
の唇がありふれた5文字をなぞる。けれど、それは俺に向けられたんじゃなくて、憎らしいことに、土方に向けられていた。
「銀ちゃんが、あたしのこと見てるの、知ってる。」
淡々とつむがれる言葉、その全てが俺につきささる。知っているなら、どうして。――知っているから、尚更?
俺は何も言い出せない。ただうつむいて、聞いているだけ。反論はできない。
すべての手段を封じられて、俺に武器なんてなくて、そんな俺に向かって、 は 卑怯、 だ。
「知ってるから、言ったの」
「…諦めろ、って?」
やけに喉が渇く。どうしよう、どうしよう。離したくない。その細い腕を掴んで、一生離したくない。お前は俺のものになるんだってずっと思ってた。土方がお前を想うとは思えない。なあ、俺にしとけよ。俺に。
どうして俺じゃダメなんだ、なんて、言い出せるわけねえだろ。みっともとねえんだろ。お前はそういうの、一番嫌いだろ。
の長い髪が、日に透けて栗色で。俺の視界の端っこで揺れる。の顔もまともに見れないなんて、俺は弱い。小さい男だな。自嘲が零れた。
「好きだ」
3文字。うつむいたままの俺の、わずかな反撃。
「うん、アリガト。けど …応えらんないから。」
すきだ、好きだ。俺はお前じゃないとダメだ。どうすれば伝わっただろう。いつから、お前はアイツが好きで、俺は、どこで間違った? どうやったらお前は振り向いてくれる?
なあ、答えろよ。応えて欲しい。俺ばっかすきで、そんなの、おかしい。
「ばいばい、銀ちゃん。」
そうやって、俺の気持ちは置き去りで、お前は手を振るんだな。
やっぱりお前は卑怯だ。
(09/02/21 これぐらい想われてみたい。←)